アルパックニュースレター169号

小さな町の大きな志「真鶴町長期計画」

執筆者;東京事務所 野口和雄

人口減少、高齢化、少子化、財政縮小そして地域社会の弱体化の中にあって、合併を拒否した小さな自治体が、まちづくり条例により積み重ねてきた“美の町”という誇りを守りながらどう自立していくのか。どの町とも同じように、町に課せられた課題は本質的で大きい。それらの現状を踏まえ、真鶴町では、「自治事務下における総合計画のあり方とは何か?」、庁内、町民、議会と議論を重ねた。
「予算は関心があるが、総合計画なんて関心がない」「どこにでもある言葉で書き連ねた厚い総合計画は何の役に立つのか」という町民の批判。「担当は予算や分野ごとのマスタープランで仕事をしている」「総合計画で、仕事をしているわけではない」「制度に基づいた経常的事務事業と行革の中で、日常的業務は手一杯」という職員の感想が寄せられる。
しかし、地区別の年齢階級別人口の推移と人口推計のデータを見て、職員も町民も唖然とする。「町が消える」「坂の町で、買い物もゴミ出しも出来ない。高齢者を誰が支えるのか、町全体で老老介護か」。
そこで出た結論は以下の4点。(1)マスタープランは一つあれば良い。沢山あるマスタープランを統合しよう。(2)行政も町民も、10年で何をやるのか共有化できる計画にして、総ての町民に総合計画を配ろう。(3)総合計画を実現するためのシステムを作ろう。(4)人口減少時代で町民が何をするのか、わかる計画を作ろう、ということであった。
毎年開催した「まちづくり討論会」では、1年かけて検討した蓄積に基づいて、町民、職員が円卓方式で議論をした。3カ年かけて策定した結論は、「美しい町」「分かち合い」「地方政府」の実現。「この思想に基づいて知恵を出す」、「行政と町民(真鶴町では町を愛する町外者も町民の扱い)による有機的に実践が行われれば、町に未来はある」ということ。 総合計画「未来(あす)を築くビジョン」は、20ページにも満たない薄い冊子としてまとまった。3つの重点的方針と5つの分野別方針、実行管理システムを記述し、分野別方針には、都市計画マスタープラン、地域福祉計画、教育振興基本計画を統合し、議会議決した。しかも、全世帯に冊子を配布した。
さらに、総合計画に基づいて3ヵ年の実施計画(ローリング方式)で事務事業を網羅し、予算編成を行う。実施計画には、戦略的事業と経常的事業のマトリックスを掲載し関係の「見える化」を行った。実施計画は、審議会、議会で議論され、毎年点検、見直しが行われ、公開される。
運用が開始された平成23年度には、総合計画づくりを担った職員が中心となって、担当だけの仕事では実現しない重点的方針について、実現するためのプロジェクトチームが若手職員により結成された。また、総合計画の思想を「仕組み」とするため、常設型町民投票制度等を盛り込んだ(仮称)自治基本条例が町民により検討されている。
(総合計画、実施計画は、町のホームページで全文が紹介されています)


総合計画「未来(あす)を築くビジョン」表紙

アルパックニュースレター169号・目次

2011年9月1日発行

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