アルパックニュースレター169号
周辺市街地の土地利用マネジメント
~非建築的土地利用の“状態”のコントロール
はじめに
大都市圏の周辺部に位置する市街地(周辺市街地)は、市域の大半(特に市街化区域)で市街化が進み、人口も減少基調に差し掛かってきました。駅前などの市街地整備事業もほぼ完成、いわば都市の骨格はほぼ整ってきています。
都市計画は新規に開発・建築行為を行う際に何らかの制限を課し、より良い方向に誘導するツールとしては有効に機能してきましたが、そもそも開発・建築行為が起こりにくい状況が周辺市街地で生まれています。こうした現象の問題提起はされているものの、具体的な処方箋までは至っていないのが実情のようです。
そこで、様々な業務や研究会などに参加しながら得たことをヒントに、上記のテーマについて私見を述べたいと思います。
非建築的土地利用の扱いが課題
市街化区域は市街化を促進すべき区域として農地に宅地並課税を課し宅地化を誘導してきましたが、周辺市街地では開発・建築行為の鈍化傾向を背景に農地が散在している状況です。こうした市街地内の農地は多面的機能を発揮する空間として再評価されつつありますが、その一方で所有者の高齢化・後継者不足などにより農地転用も増加しており、不耕作地・空き地・駐車場などの土地利用も増加しています(ある都市で調査したところ、平成17~21年の5年間の農地転用の半分近くが資材置き場や露天駐車場などの土地利用となっているデータが得られました)。こうした土地は適正に管理されていないことから防犯上や景観上も問題となっているケースも見られます。
現状では、これらに対して都市計画としての規制誘導策は整えられておらず、個々に条例などで対応しているケースはあるものの、基本的に手が届いていない状態です。
こうした農地も含む建築的行為を含まない土地利用を「非建築的土地利用」と呼んでおり、国土交通省の審議会においても議論が交わされています。
“適正に管理されていない状態”を認めるのかどうか
業務や有志の研究会に携わる中で議論になるのが、「非建築的土地利用が適正に管理されていないまま置いておく、この状態をどう捉えるのか」です。
例えば農地であれば適正に営農された状態でこそ本来の機能を発揮するのですが、そうなっていない状態をどう評価するのか。それがすなわち「悪」だと断ずるのは乱暴かもしれませんが、少なくともそうした状態へのある種の「後ろめたさ」が働かないと、なかなか解消へと向かいにくいのでは、と個人的に感じます。
![]() 建築的土地利用と非建築的土地利用が混在 |
![]() 非建築的土地利用の状態をどう扱うか |
各地での試行的な取り組み
そのような中、一石を投じる取り組みも議論されていますのでご紹介します。
和歌山県では「建築物等の外観の維持保全及び景観支障状態の制限に関する条例」がこの6月の県議会に可決されました。これは建築物等を廃墟にしないように最低限の規範を規定の上、住民の要請に基づき景観上支障となる廃墟への対策を制度化したものです。和歌山県は空き家率も高く、人口減少もあって建築行為自体がそれほど起こらない中で、景観を良くしていくために踏み込んだ措置を採っていくという意思を示されています。
また、Vol.167で「都市と農のよい関係~新たな都市計画を展望して」として紹介しましたが、兵庫県で市街化区域内農地の利活用方策を検討されています。その中で農地として維持できず放棄地になってしまう場所であっても、緑地として地域で適正に管理する場合には、何らかのインセンティブを付加することで市街地内の空間の質を高められる緑地として保全できないか、といった議論も出ています。
“適正に管理されていない状態”に対する措置=「状態」のマネジメントへ
いずれも、そもそも建築・開発行為が起こらない中でより良い状態にどう誘導するか、といういわば「状態」のマネジメントというべきテーマと考えます。都市計画の関心が空間の質へと移る中で、その土地の状態が適正に維持・管理されるような仕組みづくりが求められています。すなわち、土地を個人の単位・意思で自由に使う時代から、一定のルールのもと公共的価値も担保しながら状態を維持・管理する、賢く使っていく時代へとシフトしていくことが展望されます。
その際には、「良好な状態」とは一体どのようなもので何をもって判断するのか、「良好な状態」を維持することや「良好な状態」にもっていくことを誰がどうやって担保するのか、などが課題となってきます。
前者の課題は、先行する事例では地域住民の発意などコミュニティの判断に委ねていますが、景観法が各地の取り組みに後押しされ法律として誕生したように、今後は公共性を有する行政が判断できるしくみも生まれてくるのではないかと思っています。
後者の課題は、先に述べた「後ろめたさ」を発揮するような制度的枠組みが必要で、とりわけ非建築的土地利用に対する税制上の規制・インセンティブが重要ではないかと考えています。
一朝一夕にはいかない難しいテーマですが、市町村といった現場でのまちづくりの創意工夫と、税制などまで踏み込んだ国の大胆な制度改革が両輪で進むことを期待していますし、私自身も現場の中で答えを追究していきたいと考えています。
アルパックニュースレター169号・目次
「まちづくりとエリアマネジメント」
- 名古屋における協議会型まちづくりの紹介~広がり始めたエリアマネジメント
/名古屋事務所 尾関利勝 - 既成市街地における土地利用マネジメント~潮江密集地区のまちづくりの事例
/大阪事務所 岡本壮平・清水紀行 - 周辺市街地の土地利用マネジメント~非建築的土地利用の“状態”のコントロール
/大阪事務所 絹原一寛 - 地方都市の生活拠点のマネジメント~持続的な生活圏構造に向けて/大阪事務所 岡本壮平
- 住宅地の住環境マネジメント/大阪事務所 嶋崎雅嘉
- まちなかバルによるエリアマネジメントの第一歩/大阪事務所 中塚一
ひと・まち・地域
きんきょう
- 文化的転換/相談役(NPO平安京 代表理事)三輪泰司
- 「スマート・シュリンキングによる関西再生」まちづくり技術交流部会に参加しています
/京都事務所 石川聡史 大阪事務所 中塚一・絹原一寛・橋本晋輔 - 守山市でベンガラ塗りワークショップをしました/京都事務所 三浦健史









