アルパックニュースレター179号

中小企業が海外展開しても国内は空洞化しない!~関西中小企業の海外展開実態調査のご報告

執筆者;地域産業イノベーショングループ/江藤慎介・高野隆嗣

はじめに

 海外直接投資を行う中小製造業の割合は全国で1%(中小企業白書2012年版)と言われる中、国の「経済社会ビジョン」(2012年6月)や「成長戦略」(2013年策定予定)では、「成長の著しい海外市場の獲得が急務」と位置付けられています。
 近畿経済産業局では昨年度、近畿の中小・中堅企業における海外展開の実態調査に取り組まれましたが、弊社がお手伝いする機会を得ましたのでご案内します。

海外展開は国内に投資と雇用をもたらす

 国内業績は厳しい見通し中小企業が大勢の中、海外直接投資を実施している企業は国内業績も好調であり、海外売上高が拡大している企業については国内の売上高や従業員数も拡大する傾向にあります。「企業の海外展開は、国内に投資と雇用をもたらす」ものだと言えます(図1)。
 製造業の国際分業の実態を詳しく見ると、生産機能の海外移転が進む中、企画・設計や先端部品や中核部素材など、事業のコアとなる工程については、海外へ移転せず国内に引き続き確保する傾向が見られます。特に、部品製造業では製品企画・設計工程を国内に確保する企業の割合が大きく、また、一般消費者向けの(最終)製品を製造している企業では、製品企画・設計だけでなく組立工程も国内に確保する傾向があります(図2)。


図1 海外売上高と国内売上高/国内従業者数の関係(SA)

図2 国内拠点/海外拠点の機能・役割(MA)

「海外展開」は生産拠点から販売拠点へ

 これまでの海外展開では、安価な人件費や福利厚生費による製造原価の抑制が海外直接投資の主眼とされてきました。しかしながら、品質管理や労務などマネジメントに苦労するケースが多く、カントリーリスクへの対策として、タイやベトナムなど「チャイナ・プラス・ワン」を検討する動きが見られます。
 さらに、市場規模の大きさや成長性への期待感から営業・販売拠点の海外直接投資の増加も見込まれます(図3)。

中小・中堅企業の海外展開の推進に向けて

 近畿地域の中小・中堅企業においても製造業・非製造業を問わず、今後もますます海外展開が増加すると考えられます(図4)。中でも、従来のような「取引先の要請に従って進出」する縦関係による決断ではなく、中小企業同士の横連携による海外展開事例も生まれています。しかし、海外展開の意欲や技術があっても、海外で活躍できる中核人材の確保や育成が不可欠です。中小・中堅企業のニーズに応じた施策展開が今後の課題と考えられます。
 今回調査の中でヒアリングに協力いただいた経営者の皆さんの多くが「海外に打って出て良かった」と話されることが印象的でした。高度経済成長期の高揚感は今は昔ですが、現代に生きる我々もまた、海外に夢を馳せることで、成長していくきっかけとしたいと思います。


図3 海外直接投資の理由(MA, N=427)

図4 海外展開実績(MA, N=1504)

アルパックニュースレター179号・目次

2013年6月1日発行

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