アルパックニュースレター197号

建築プランニング・デザイングループ紹介(前編)
『人の営みに寄り添い続ける建築をめざして』

グループ長/高坂憲治  チームシルバーバック/原田稔・三浦健史・塗師木伸介・樋口彩子
チームマンボウ/山崎博央・鮒子田稔理・和田裕介・増見康平  チームサポート/前田恭宏

建築プランニング・デザイングループ

 アルパックの建築は創業以来プランニング(計画)とデザイン(設計)を一体的に考えてきました。どんな建築であれ建築である以上社会的な存在であり、地域の中で長い時間その役割を果たす使命をもっています。一つの建築が地域の中で生き続けるということは、建築という場で人々がどのような営みを続けていけるかということにほかなりません。そのような計画や設計の条件を明らかにすることからアルパックの建築は始まります。建築の機能や規模や形態だけでなく、「人」に注目しています。最終的には「人と人のつながり」、「人ともののつながり」をデザインすることに行き着くからです。そのために我々は「想像(imagination)」と「創造(creation)」の2つの「そうぞう力」が必要だと感じています。
 建築プランニングデザイングループ(以下建築PDG)では、今年から「チームマンボウ」と「チームシルバーバック」と命名した2つのチーム編成で取り組んでいきます。
 チーム名の由来は各メンバーにお問い合わせください。メンバーによってそれぞれ違う答えが返ってきてもどれも正解だとお考えください。
 グループ紹介(前編)では平成27年度に誕生した6つの物語を紹介致します。

六満保育園/三浦健史

 京都市内には寺院の境内を使って始められた保育園が多くありますが、六満保育園もその一つです。元の園舎は耐震診断の結果が悪く補強が難しかったため、定員増(150名から170名)を伴う建て替えとなりました。
 定員増や現在の施設基準により増える面積を限られた敷地のどこで取るか、加えて既存不適格部分の是正や寺院境内としての風情等、検討すべきことは複雑で難しいものがありました。
  新園舎の特徴は、まず本堂との調和を考え、元の園舎に高さ、雰囲気を合わせたということでした。2つ目は建物と地面を最大限利用できるようにすることで、屋上の積極的利用や3階にピロティを張り出したことによる地上の園庭確保、また保育スペースとしても利用できる廊下の設え等が挙げられます。3つ目は将来のこども園化への対応で、乳児室を3階に設けること等を行っています。
 新園舎完成後の3月12日には、一大行事である「おゆうぎ会」が無事行われました。卒園する5歳児たちが最後に新園舎で晴れ舞台に立ち、生き生きと演じているのを見てうれしく思い、また重責を果たせてホッとしました。地域のこどもたちが安心して楽しく過ごせる場として、末永く使われることを願っています。


北側外観

0歳児室

園庭

住吉西保育園/三浦健史

 昭和62年に現園舎を弊社で設計監理した住吉西保育園は、京都市伏見区の住宅街にあります。創立60年を機に今回、2歳児以上のみの保育から新たに0-1歳児を受け入れ、定員増(90名から120名)に伴う増築と改修を行いました。
 元は平屋で、中庭を囲うコの字平面でした。中庭は、風が抜けて光も入る気持ちの良い空間でしたが、段差があって危ないため保育には使われていませんでした。一方で園庭は、京都市内随一の広さと立派な桜並木が特徴です。どちらも増築するにはもったいない環境でした。結論としては、中庭には平屋を一部だけ増築して乳児の遊び場として整備する、園庭側には広がりに影響の少ないように、また桜並木も残して増築する、というものになりました。
 保育しながらの工事となるため、転がしの順序も検討して設計していきました。整備後の園舎の特徴は、乳児専用の玄関と遊び場、遊戯室と一体になるランチルーム、保育の幅を広げるウッドデッキ、運動会の際にはギャラリーにもなる屋外階段、浸水の際には避難場となる2階の多目的室などです。特に2階の増築は、2年前に園舎の近くまで床下浸水したための安全上の要望でした。
 今年も無事に桜が咲きました。園の保育と雰囲気は、先生のお言葉をお借りすれば「昭和的」、昔ながらののびのびとして落ち着いた感じで、そんな雰囲気にぴったりの増築、改修となりました。


南側外観

2歳児室ウッドデッキ

ランチルーム

0,1歳児室トンネル家具

光林保育園/山崎博央・塗師木伸介

 3月31日に京都市下京区にある光林保育園の0歳児棟が竣工致しました。定員増加をめざすに当たって35年前にアルパックで設計した本園舎が、手狭になったため、0歳児用の園舎を新築することとなり、今回も設計させて頂くこととなりました。
 0歳児用の園舎ということもあり、設計する上で特に安全のための気遣いが求められました。また、敷地条件的にあまり大きな建物とすることは出来ず、小さいからこそ厳密な設計が求められました。トイレ内の配置に関しても打合せ中に園長先生はじめ0歳児担当の先生も一緒に原寸大で考えながら検討しました。
 光林保育園はお寺の中にある保育園です。打合せ等で何度も通っているうちに、お寺という環境で遊んでいる子ども達にとって、この環境は家とは異なるもう一つの原風景となるのだろうと思うようになりました。このため、0歳児棟からもお寺を感じる事が出来る空間としたいと考え、2階に上がると正面に山門の鬼瓦が見え、ハイサイドの窓からは庫裏の大屋根が広がるように考えました。
 また、本敷地は綾小路通りに面し、周囲にはお寺が多くそれぞれが土塀で囲われています。道に面する0歳児棟の外壁にはそれらと高さを合わせた腰板を貼り、この通り特有の土塀が連続する雰囲気に溶け込ませています。


 

 

 

篠山市の伝統的建造物群保存地区での古民家修理/和田裕介

 アルパックでは、平成13年度から4年間、兵庫県篠山市の城下町地区において、重要伝統的建造物群保存地区の選定に向けた保存対策調査を実施しました。この調査を契機に、重伝建地区選定(平成16年12月)後も、現在に至るまで10年以上にわたり、城下町地区のまちづくりをお手伝いすることになります。


修理例:小林家 修理前

修理例:小林家 修理後

修理例:篠山市立安間家資料館 修理前

修理例:篠山市立安間家資料館 修理後

 具体的な関わりとして、地区防災計画の策定や、伝建地区の運営を担う「まちなみ保存会」への出席(毎月開催)、そして、伝統的建造物等の保存修理事業における設計監理などを継続して実施してきました。これまでに、城下町地区で20件近くの伝統的建造物を修理しました。設計は、軸組や基礎などの構造から修理するものや瓦や左官などの仕上げを修理するもの、はたまた、茅葺き屋根の葺替えなど様々なケースがあります。
 瓦は、現在一般に流通しているものよりも小さなサイズが用いられ、軒瓦や袖瓦、熨斗瓦などの形状も異なります。瓦の屋根並みは、町並みの主要な構成要素となることから、費用がかさむものの、小さな瓦(64版)や、特注で焼いた役物の瓦を修理に用います。
 往時は、漆喰塗りがとても高価な仕上げだったことから、「灰中塗り」という土に石灰、砂をまぜた仕上げが外壁に良く使われます。土は、左官職人と相談しながら、篠山周辺のものを用いますが、場所に応じて土の色も異なり、結果として仕上げの色も変化します。このように、修理に用いる材料や素材も、痕跡や、篠山ならではの特徴を活かして選択します。
 なお、同市の福住地区でも、平成19年度から3年間、保存対策調査を実施し、平成24年12月に重伝建地区に選定されました。福住地区でも、城下町地区と同様に、地区防災計画の策定やまちなみ保存会への出席、保存修理事業における設計監理を行っています。


修理例:森田家 修理前

修理例:森田家 修理後

竹野ジオエリア拠点施設(北前館)/高坂憲治・鮒子田稔理

 豊岡市の北に位置し山陰海岸国立公園の中にある竹野海岸は、山陰海岸の中でも美しい砂浜と海水を誇り、世界ジオパークネットワークへの登録を機に来訪者が増加しています。竹野では、これらのエリアをフィールドにしてジオカヌーやスノーケル、海上タクシーや遊覧船など様々なアクティビティへの誘導が重要な位置を占めるようになり、この度、既設の北前館をこれらの拠点施設として位置づけ、展示施設のリニューアルを行いました。直径5mの模型に照らし出されるプロジェクションマッピングでは、山陰海岸の成り立ちや歴史、竹野の生活や文化をわかりやすく紹介し、周囲の展示と連動させながら、空間的に竹野ジオエリアを体感できる施設となっています。


2階展示室よりプロジェクションマッピングを見る

増築した風除室に展示された北前船の模型

 また、竹野は風待ち、潮待ちに適した自然地形から、江戸時代から明治にかけて活躍した「北前船」の寄港地として栄え、北前船に関する資料も展示されています。今回のリニューアルに伴い外部から見えにくい位置に展示されていた北前船の1/5模型を竹野ジオサイトの象徴としてPRするため、ガラス張りの風除室を増築しました。
 夏には海水浴客で賑わう竹野浜ですが、春から秋にかけても楽しむことができるアクティビティが満載で、ジオカヌーや海上タクシーで海から眺める「はさかり岩」や「淀の洞門」などの自然が造りだした景観の迫力を味わうこともできます。是非一度訪れてみてください。


竹野の風景を映しだすプロジェクションマッピング

海からみた山陰ジオパーク(竹野海岸)

京都信用保証協会山城支所/高坂憲治・山崎博央・塗師木伸介

 京都信用保証協会は、「公平・平等・公正」をモットーとして、京都の中小企業の中に埋もれている信用力を発掘し、豊かな伝統と文化に支えられた京都の産業振興と経済発展に貢献すべき公共的使命をもって、京都の中小企業の経営基盤の安定と強化、事業発展に寄与することをその経営理念としています。
 山城支所は京都信用保証協会の4つの支所のうちの一つで、歴史ある宇治に立地しています。
 山城支所のデザインにあたっては、公正・平等・公正をモットーとした信用保証協会の信用力を表すものであると同時に、宇治のまちに溶け込んで、人間的な柔らかさや伝統的な手仕事のもつ暖かさを表現したいと考えました。
 基壇となる1階は、1枚1枚手仕事で組み上げた杉板の木目を浮き立たせるようなコンクリート打放しとし、2階には10cm角のタイルを格子状に張ることとによって、伝統的な格式を表現しています。
 1階と2階にはそれぞれ庇を設け水平線を強調することによって、通りに面したヨコへのつながりを意識しています。また、庇を丸柱で結ぶことで、宇治の平等院の軽やかさと飛翔感を表現し、堅実で信用性の高い信用保証協会に人のぬくもりを重ね合わせたいと考えてきました。
 山城地域の中小企業を支援する拠点として、さらなる発展を願っています。


 

 

建築プランニング・デザイングループメンバー

高坂憲治


(1)長野県
(2)テニス 蕎麦打ち
(3)上には上がある

原田稔


(1)京都府
(2)登ること、スーパーネィティブな京都弁
(3)Love peace  Less is more

三浦健史


(1)東京都
(2)巨大金魚の世話
(3)99%関係者の話を聞き、残りの1%から出発する。それでも村野は残る。

塗師木伸介


(1)大阪府
(2)カメラ、50m走
(3)小さなことからコツコツと

樋口彩子


(1)奈良県
(2)さんぽ、音楽鑑賞、空手
(3)奈良観光ならお任せください!

山崎博央


(1)石川県
(2)家族サービス 深酒
(3)念ずれば花ひらく

鮒子田稔理


(1)京都府
(2)旨いもんを見つけることと作ること
(3)明日世界が滅びるとしても、今日私はリンゴの木を植える

和田裕介


(1)大阪府
(2)アクアリウム
(3)なんとかなる

新人紹介/増見康平


 はじめまして。4月から建築PDG、チームマンボウ所属になりました増見康平です。
 幼少期からSFとものづくりが好きだったことから宇宙での都市開発を最終目標としています。学生時代は、フットワークの軽さを活かして学内外で建築・都市・土木(橋梁)・プロダクトなどの幅広いデザインを学び、実際に自分の手を動かしてカタチをつくる経験をしてきました。その中で学んだ「アーティストではなく、デザイナーとしてのデザイン」を継続して心がけてこれからの仕事に取り組んでいこうと思います。夢の実現まで遠く、長い道のりですが、マンボウのようにゆっくりと泳ぎながら、日々楽しんで歩んでいきたいと思います。

(1)兵庫県
(2)つくること
(3)It always seems impossible until it's done.

(1)出身地、(2)趣味・特技、(3)一言メッセージ  座右の銘

アルパックニュースレター197号・目次

2016年6月1日発行

アルパックチーム紹介

ひと・まち・地域

きんきょう

まちかど