アルパックニュースレター197号
伝承譜 その2 継承者の心構え
「伝承と継承」(192号)の続きです。
個人であれ、組織であれ、日々刻々、たくさんのことが伝承されています。それが人間の特性である「歴史」というもの。私もたくさん伝承を受けてきたはずです。無意識で受けていたもの、意識して受け継いだこと、振り返って、「伝承」を受ける側である継承者の問題意識があって「継承」になると思い至りました。如何に意識して継承するか、考えてみました。
「継承」行動 五日市憲法草案のこと
1年前、2015年の5月11日、武蔵小金井で旧友と会った後、足をのばして立川から拝島を経て五日市線の終点、武蔵五日市まで行きました。目的はかねて確かめたいと思っていた「五日市憲法草案」の実物を見るため、あきる野市の郷土館を訪ねることでした。
市役所で場所を聞き、車を出して頂いたのですが、運転手さんは、鯉幟の立つ完成したばかりの市指定有形文化財・市倉家住宅の方を案内して下さるのです。確かに郷土館は、大きくもなく、静かでした。
こんなところまで、と信じられなかったのですが天皇・皇后が行幸啓されたのは、2012年1月23日で、お写真もありました。
その翌年、美智子皇后がお誕生日に際し、宮内記者会の質問に答え、この時の深い感銘を語られています。引用させて頂きます。
「近代日本の黎明期に生きた人々の、政治参加への強い意欲や、自国の未来にかけた熱い願いに触れ、深い感銘を覚えたことでした。長い鎖国を経た19世紀末の日本で、市井の人々の間に既に育っていた民権意識を記録するものとして、世界でも珍しい文化遺産ではないかと思います。」:(2013年10月20日)
1879~1881年(明治12~14年)を中心に、大日本帝国憲法公布前に、起草された個人・団体の「私擬憲法」と言われる「憲法草案」は、全国で、40編余が確認されています。なかでも、この五日市憲法草案は、完成度の高さからも特筆されます。日本国憲法起草にも、大きな影響を与えているのです。全ての人間の尊厳に基礎を置く人権尊重は人類史の非可逆的な潮流です。
先ずは、先達の思いを、精一杯受け止め「継承」の努力を注ぐことではないでしょうか。
それにしても、天皇・皇后が、民草―ピープルの民権意識に着眼し、顕彰し、その「継承」へ注がれる熱意と行動にいたく感じ入り、改めて両陛下の行為と言行に注目しました。
昨年はペリリュー島、今年は早々からフィリッピンへ慰霊の旅。実は、天皇は私の2歳下、皇后は3歳下。すなわち、同世代であり、お互いに80歳を過ぎているのです。「みわさんはお元気ですね」と言われますが、パラオ諸島はとても遠いです。しかも天皇は、お身体が万全ではないのです。命がけの感すらするのです。
伝承・継承の努力 自省から始まる
[継承]即ち受継ぐのは、受継ぐ側の問題意識がしっかりしていて、成り立ちます。
問題意識とは、まず「動機」モチベーション。次に「責任」の自覚。そして具体的な「行動」です。「しっかり」とは「責任」自覚に立つ判断基準、そこからの信念のこと。
おそらく、日本で「継承」という責務を最も自覚されているのは、天皇・皇后ではないでしょうか。先帝・昭和天皇が体験されたことを見ておられます。そして、帝国憲法のもとでの国家元首の地位も大元帥という権威も経験されておりません。
五日市憲法草案にある庶民の基本的人権の自覚に着目された根底にある「信念」は何に根ざしているのでしょう。私の想像ですが、先帝の残された最後の「詔勅」があります。新憲法発布で、国民と政府を拘束する法的効力は無くなっていますが、天皇家の信念の根拠であってもおかしくはありません。日本国憲法公布の詔勅です。僅か300字ほどの短い詔勅です。
日本人で、一番、悩み、苦み、自省されたお方ではないか、と感じました。
たぶん、どなたか起草した人があるでしょうが、最後の「国民と共に、全力をあげ、相携えて・・・自由と平和と愛する文化国家を建設するように努めたいと思う」というくだりには、昭和天皇個人の決意が込められていると思いました。先帝の決意とも言えるこの詔勅が、あきる野市郷土館を訪れ、五日市憲法草案に感動され、遠く慰霊の旅を続けられる信念の基礎ではないかと想像しています。
アルパックでも、歴史を顕彰し、繰り返し繰り返しの「伝承-継承」の努力が「持続」へのエネルギー源であることは確かです。
アルパックニュースレター197号・目次
アルパックチーム紹介
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- 京都のまちを元気にする、空き家の再生・活用に取り組んでいます!/杉原五郎・松本明・嶋崎雅嘉・戸田幸典・竹井隆人
- コミュニケーションツールとしてのまちづくり条例-門真市まちづくり基本条例づくりに関わって-/坂井信行・水谷省三・中井翔太・羽田拓也
- (仮称)此花区エクソダス大作戦~此花区民は大阪城をめざす!~/清水紀行・石川聡史・松下藍子・中井翔太・坂井信行
- 地域から少子高齢化への対応を考える その16~人口増加の参考になる可能性がある基礎的自治体/森脇宏
- ネパール・ゴルカ地震から1年/堀口浩司
きんきょう
- 伝承譜 その2 継承者の心構え/三輪泰司
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- 「ママ起業」と子育て中の母親の生活満足について~職場復帰のご挨拶~/依藤光代









