アルパックニュースレター161号

市街化調整区域の地区計画「小出石町地区計画」要望書の提出

執筆者;京都事務所 石本幸良

 京都市左京区の大原の里の北に位置する集落「小出石」地区において、平成20年10月から市街化調整区域における地区計画策定の取組を進めてきましたが、地区の合意が得られ、3月26日に京都市に都市計画決定の手続きの要望書を提出しました。今回は地区計画策定に至る経緯も含めて報告します。

小出石地区での取組の背景

 大原地区は近年少子化が急速に進み、学校の存続、農業や伝統行事の継承者不足など重要な問題に直面しています。大原自治連合会ではNPO法人大原里づくり協会と共同で平成19年度に「若年層定住促進委員会」を設置して、市街化調整区域における開発規制の緩和や若年層の流出等の問題の検討を開始し、滋賀県の集落地区計画導入地区の見学や、地区計画制度の学習会を重ねました。
 一方、京都市においては同時期に、「市街化調整区域における地区計画運用基準」の検討を進めていました。市では運用基準案をもとに対象となる市街化調整区域の地区等に説明会を実施することとなり、平成20年1月17日に大原地区を対象に制度説明会を開催しました。その後、自治連合会では委員会を中心に運用基準の検討を行い、1月31日に大原地区としての要望を踏まえ意見書を提出しました。

小出石地区とアルパックの関わり

 アルパックではその両者の取組に携わっていることもあり、平成21年度に運用基準の施行が確定した段階において、市都市計画課および京都市景観・まちづくりセンターと協議を行い、京都市で市街化調整区域の地区計画の取組の最初のモデル地区として大原地区で地区計画策定の取組支援を検討することとしました。大原地区には多くの集落がありますが、集落の規模及び住民のまとまり度などを考慮して、小出石地区の委員と協議を行い、小出石地区から地区計画策定の取組を進めたいとの要望を市に提出して頂き、京都市景観・まちづくりセンターの支援が7月に決定しました。アルパックはセンターからまちづくりコーディネーターの委託を受けてアドバイスを開始しました。

小出石地区での取組の概要

 小出石地区では集落の会合で委員を選定し、そのメンバーで「小出石町ビジョン検討委員会」を設置して、10月から本格的な検討を開始しました。平成20年度の取組内容はニュースレターNo.156号で紹介していますが、「小出石町十二門暮し」と題した集落ビジョンを策定することができました。
 平成21年度は「小出石町地区計画検討委員会」と名称を変え、地区計画の具体的な検討を開始しました。委員会は毎月1回のペースで開催して内容の検討を行い、その結果を「小出石まちづくりニュース」にまとめ全戸に配布しました。また、検討の節目においては委員会主催の集落全体の意見交換会を開催して、内容の報告と住民等の質問に答える取組を行い、加えてアンケートを実施して、段階ごとに住民の意向確認を行いました。結果、要望書提出までの約1年半の間に、17回の委員会、4回の意見交換会、アンケート3回、まちづくりニュースを10回発行しました。


意見交換会の様子

小出石町地区計画の概要

地区計画区域の検討
 集落は旧道沿いの集落と新田と呼ばれる国道沿いの集落の2つに別れており、地元としてはできるだけ区域を広げたいとの意見が多く出されました。しかし、地区類型で「既存集落整備型」に位置づけられ、「既存の宅地面積の合計の1.5倍は超えない区域の設定」と目安があり、この解釈について意見交換を重ねました。協議の結果、大量の新規住宅の需要が期待できないこと、地元でも既存集落の落ち着いた雰囲気も同時に守りたいとの思いもあり、結果的には旧道を中心に、集落内の住宅回りの農地や集落に連続する農地を取り込み、市の計らいもあり、目安をやや超える区域設定ができました。
地区整備計画の基準、ルールの検討
 建物用途は運用基準を基本に地区内で想定される用途の検討を行い、用途基準を設定しました。建物のルールについては自由な建築活動を求める意見も多く出されましたが、近傍の市街化区域の基準(八瀬地区)との整合性、大原地区の集落は風致地区に指定されていることの説明を行い、第一種低層住居専用地域に準ずるルールの設定としました。
 建物のデザイン基準については大原地区の風致基準を基本とした「小出石建築作法」と名付けたデザイン基準で了解を得ました。なお、風致基準における壁面の位置の制限については街道筋の集落で確保することが難しい敷地もあり、規定しませんでした。その代わり、門や塀、フェンス等の工作物に関する基準は地区の独自性を盛り込みました。

大原小出石地区地区計画素案

 地区計画素案の「区域の整備・開発及び保全の方針」については、「小出石町十二門暮し」を基本に表現しました。市街化調整区域の地区計画として「小出石地区地区計画」は結果的に「建築物等の形態及び色彩その他の意匠の制限」を盛り込んだ市内初の地区計画になる予定です。

小出石地区での取組を振り返って

 小出石地区でわずか1年半で地区計画素案を策定することができたのは以下のような要因からです。
(1)大原地区の少子化対策で、市街化調整区域の制度に関する学習会を実施していたこと。
(2)約50件ほどの小さな集落で地域のつながりも深く、意思疎通が容易であったこと。
(3)アドバイザーと地域の関係は平成11年からと長く、人間関係、信頼関係ができていたこと
 平成21年度に京都市で一時アドバイザーの変更の動きがありましたが、地元からの強い要望で、私が継続してアドバイスすることができました。
 市街化調整区域の地区計画制度導入の取組は専門的、法的な知識を必要とし、取組の積み重ねは相当な時間と技術を要します。地元だけでは策定は難しく、今後も市やセンターに対して、地元から地区計画策定の取組に対する支援の要請が想定され、アドバイザーを派遣する制度づくりが望まれます。


小出石建築作法にもとづくデザインイメージ図

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2010年5月1日発行

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