アルパックニュースレター161号

「甲子園ホテル物語―西の帝国ホテルとフランク・ロイド・ライト―」
~創造性は居心地のよい場所を求める~

三宅正弘(武庫川女子大学准教授)著 東方出版発行 紹介者;大阪事務所 岡本壮平


本表紙

 旧甲子園ホテルは、阪神間の中央、西宮市内の武庫川のほとりに位置し、現在は武庫川女子大学甲子園会館となっている。建築界のみならず地域でも有名で、ご存じの方も多いと思うが、内部の様子まで、ましてその生い立ちまでご存じの方は少ないだろう。
 甲子園ホテルは昭和5年(1930)に開業したが、戦争のためわずか14年で閉鎖。戦後の接収を経て、昭和40年に地元の武庫川学院に払い下げられ、幸運にも生き残った。
 本書は、ホテルとしては短命であったが、今なお人々を魅了し光を放ち続ける甲子園ホテルを、著者特有の様々な視点から研究し、一つの物語として構成したものである。
 甲子園ホテルといえば「フランク・ロイド・ライト」が連想されるが、実際はライトの高弟子「遠藤新」の設計によるものである。ライト式と呼ばれる特徴的な様式から、ライトによる帝国ホテルと並び称され「西の帝国ホテル」とも呼ばれてきた。その先入観から、本書についても建築論を想定しがちだが、目次の最初は意外にも「チョコレートと野球」である。意表をつく展開に「またやられたか」と思う。さらにホテルの料理、洋菓子、料理人やホテルマンの人生模様までも紐解いていく。幅広い展開にとまどいつつ、著者の『ホテルの心臓は厨房だ』という言葉に視界がクリアになる。これは現代にも通じる「ホテル学」なのだ。もちろん建築論もある。著者の十八番である石文化の視点からもアプローチされており、甲子園ホテルを特長づける素材でもあるので、改めて建築を深く理解することができる。
 これらを、戦前からの豊富な資料をバックボーンに、貴重な写真も多用しつつ、一連の読みやすい物語として仕立てている。個人的感覚で恐縮だが、例えるなら、甲子園ホテルというジグソーパズルを、周りから順にピースをはめ込んでいき全体像が見えてくる感じ、とでも言おうか。実物を見れば最後のピースがピタッとはまるような感覚、いつしか甲子園ホテルのファンに引き込んでしまうような、そんな感覚を覚える本である。実物を見て最後のピースをはめ込む際には、是非本人にガイド役を依頼したいものである(写真は弊社で撮影)。


 

 

 

アルパックニュースレター161号・目次

2010年5月1日発行

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