アルパックニュースレター161号

2年間の館長任務を終えて

執筆者;大阪事務所 森岡武

 ニュースレター2009年迎春号『篠山チルドレンズミュージアムの館長しています。』という近況報告で、「~公共施設のリノベーションモデルをもって今年(2009年)の9月議会を迎えられるようにがんばります。」と締め括ってから早1年と5ヶ月。
 結果は、平成21年8月~11月に実施された『篠山チルドレンズミュージアム施設運営企画提案』募集において、指定管理料ゼロ円の提案者に施設管理を譲ることになりました。「ゼロ円」だけに目をやるとインパクトが強いですが、この結果の是非は、今後の取り組み実績と経過を見守るしかありません。取り敢えず、存続の危機にあったミュージアムは残ることになりました。


 

「経費のかからない運営方法」は「ゼロ円」だった?

 篠山市は平成の市町村合併の先駆として10年を迎えます。当初目指した人口6万人は現在4.5万人と伸び悩み、財政再生団体に陥りかねない状況です。第二の夕張市回避を合言葉に、再生の全国モデルを目指して、具体的方策を124項目にまとめ、人件費削減と公共サービスの見直しを目玉に市民に痛みが伴う聖域なき改革に取り組んでいます。
 このような状況下で真っ先に文化教育施設にメスが入ることは全国的によくある話しで、長期的な波及効果を期待して単年度に予算化できない状況であることも仕方のないことかも知れません。平成20年11月に取りまとめられた『篠山再生計画(行財政改革編)』には、「平成20年度から2ヵ年間、指定管理者制度を導入し、1年間3,200万円の運営費としました。引き続き、経費のかからない運営方法を検討し、それが見出せない場合は、平成22年度以降は休館とします。」と記述されました。この「経費のかからない運営方法」という難解な日本語に常に悩まされ、この意味は篠山市の歳出(支出)がゼロ円だと聞かされたのは平成21年9月7日に実施された『篠山チルドレンズミュージアム施設運営企画提案』第1回審査委員会のプレゼンテーションの席でした。

施設運営企画提案募集

 施設運営企画提案の募集要項は、市として困惑の色が見え隠れした内容でした。施設機能は既存のミュージアムにこだわることなく、地域の福祉に寄与するものであればよいという内容であり、また、予算提示は「経費のかからない運営方法」とあるだけで具体的な数字の提示はありませんでした。
 我々の提案のポイントは終始一貫、「ミュージアムを社会(地域)的に機能させること。市場経済性や効率だけで評価され切り捨てられようとしている大切なものを丁寧に拾い集め、次世代に向けて再構築し残していくこと。」でした。
 もちろんこの取り組みを持続させるには儲けなければなりません。3,200万円の指定管理料を半値の1,600万円に、さらに5年後には8掛けの1,000万円まで削減可能という提案でした。指定管理料の大幅削減の方法は、収益構造の改善にあり、通信制高校(サイバーハイスクール)のスクーリングを誘致し、ミュージアムのソフトコンテンツを商品として企業に買ってもらう提案でした。結果は冒頭の通り、ゼロ円提案の会社に施設管理を譲ることになりました。

予期せぬご褒美

 つらいことばかりでもなく、数多くの新聞や雑誌等のメディアに取り上げられ、また講演依頼や視察、事業連携やまちづくりの相談に来られたりと着実に関心をもっていただける応援団が増えていました。
 そういうなか、平成21年1月30日には、篠山市は「文化芸術創造都市」として文化庁長官表彰を受けました。文化芸術の力により、市民参加で地域の活性化に取り組み、特に顕著な功績をあげている市区町村に贈られるもので、全国8都市(横浜市、金沢市、近江八幡市、沖縄市、札幌市、東京都豊島区、萩市)の仲間入りをしました。篠山チルドレンズミュージアムもユニークな取り組み実績が評価され、実名で表彰文に記述されています。
 さらに同年3月、朝日放送のドキュメタリー番組「テレメンタリー」で「ちるみゅーの逆襲」という特番が組まれました。深夜放映にも関わらずリアルタイムで見てくれた方々が多かったことに驚かされました。


 

 

指定管理者制度について

 指定管理者制度の目標は、住民サービスの質の向上であり、施設設置者が施設を最大限に機能させ、活用しようという前向きな意思が働くことが大前提です。この2年間、終始気になったのは、指定管理料を「市が負担する額」と表現していたことです。施設存続の議論が、社会的意義とかミッションとか社会的機能、市民サービスとしての有益性ではなく、「負担の軽減」に向かっていたのではないか?指定管理者制度はお荷物施設の延命システムではありません。施設設置者はあくまでも「管理」に際して民間等のノウハウを活用するものであって、住民サービスの質の向上を目指す「運営」の主体はあくまでも施設設置者でなければなりません。

篠山チルドレンズミュージアムの取り組みは、「まちづくり」そのものでした

 当ミュージアム名誉館長の河合隼雄先生の言葉に次のようなものがあります。「・・関係を持ちながら待つっていうのは大変です。『ああせい、こうせい』といってるほうがよっぽど楽なんです。だけど、そうしているうちに、何かの拍子にうまいこといき出すんですね。」
 これをヒントに、私が目指したものは、関係性を再構築することでした。関係者が「主体的に関わる場の創出」です。スタッフはもちろん、地元住民やボランティアや来館者など、それぞれが主体的に関わることで“ともに学ぶ場”を創り出すことでした。
 地域に根を張るミュージアム。地域に芽を出すミュージアム。地域に花を咲かせるミュージアム。実をつけ、種をつくり、その種がまた根を張る。
 “まちづくり”は、過去の消費ではなく、現在の浪費でもなく、未来への投資であって欲しい。“まちづくり”はまちで暮らす人々の日常の営みそのものです。美術館や博物館のみならず公共施設全般が人の営みとなりますように願ってやみません。


 

 

アルパックニュースレター161号・目次

2010年5月1日発行

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