アルパックニュースレター161号

「昭和初期に開発された桜並木の住宅地を守り続けていくために~桜と調和したまちづくりに向けた講演会とコンサートが開催されました~」

執筆者;京都事務所 石川聡史

 日本に春の到来を告げる桜の花。今年、関西では気温が低い日が続き、長い期間開花していたこともあって、公園などでお花見を楽しんだ方も多かったのではないでしょうか。
 さて、桜は、「日本人が好きな木」と「日本人が好きな花」の両方で第1位に選ばれる(NHK放送文化研究所 2007年)ほど日本人に親しまれている木・花です。しかし、「桜切る馬鹿梅切らぬ馬鹿」と言われるように、剪定するとウイルスに感染して枯れてしまうし、大気汚染にも弱く、毛虫が付きやすいという問題もあって、植樹にふさわしい場所は限られているのが現状です。公園や広い庭園などに植えるのはいいですが、街路樹としてはあまり向いているとは言えません。


 

 しかし、その桜を住宅地の街路樹として何十年も守り続けてきたまちが京都にあります。
 京都市の西隣に位置する向日市。かつて長岡京が置かれた人口約5.5万人の住宅都市ですが、その向日市の阪急西向日駅周辺は、昭和初期に現阪急電鉄が開発した低層戸建住宅が中心の住宅地で、イギリスの田園都市に倣った、静閑な街並みが形成されています。
 この西向日駅周辺が、桜の名所で、公園や広場だけでなく、街路樹としても桜が使われており、地区の道路全てが桜の街路となっているのが大きな特徴です。本数は、全部で約270本。桜の季節には、街中が桜で埋め尽くされる感じがします。
 この長く受け継がれてきた桜を今後も守りながら、桜と調和したまちづくりを考えていくため、この春、地元住民が「西向日の桜並木と景観を保存する会」を結成しました。
 活動のスタートイベントとして、この4月4日にまちづくりに関する講演会と地元の演奏家によるコンサートを開催。講演会では、京都府景観アドバイザーを務める弊社の石本幸良が、地元住民らを前に、桜並木と調和した街並みの「たたずまい」を守っていくことの大切さなどについて講演しました。
 講演終了後は、満開の桜に囲まれた噴水公園に場所を移し、地元演奏家によるコンサートを楽しみました。この日は晴天で桜も見事に満開。コンサートでは、子どもの飛び入り参加もあり、大変盛り上がりました。
 これらのイベントが、桜並木のまちづくりに関心を向けてもらう大きなきっかけとなったことと思います。
 まちづくりに限ったことではありませんが、いくら良いものがあっても、それに慣れきってしまうと、当然あるものと思ってしまい、その大切さにはあまり気づかなくなってしまうものです。本来、街路樹としてはあまり向かない桜の木ですが、地元と行政の方々の努力によって今日まで大切に守られてきました。この素晴らしい街並みが、これからも長く受け継がれていくことを期待します。


 

 

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2010年5月1日発行

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