アルパックニュースレター172号

特集

「城下都市(まち)」+「にぎわい景観」=「中心市街地活性化」

執筆者;大阪事務所 岡本壮平・絹原一寛・橋本晋輔

姫路駅ホームから見た大手前通りの眺望
(天守閣は平成の大修理中)

明石らしさを醸し出す商店街の景観
(魚の棚商店街)

近世の城下町を基礎に発展してきた街は多くあります。幸運にも戦災を逃れ歴史的な町並みが残っている街では、城下町らしさを生かしたまち興しが活発です。しかし、戦災で消失した城下町や急激に現代都市へと成長した都市では、今や城下町の痕跡を探すのも難しく、城下町らしさを期待してきた観光客には少々肩すかしな思い出を作ってしまうこともあります(特に外国人観光客には)。
ここでは、姫路市と明石市を例に、城下町らしさを失った街での中心市街地活性化の取り組みを紹介し、今後のまちづくりについて私見を述べます。

姫路市では…(文化遺産と調和した活性化を考える)

国宝・姫路城は世界文化遺産として、世界的価値を有する歴史資産です。しかし、その城下町は戦災により消失し、戦後は播磨地域100万人の中核都市として都市開発が進みました。実はあまり知られていませんが、JR姫路駅のあたりがかつての外堀で、そこから北側は広大な城下町だったのです。大手門までまっすぐに延びる大手前通り(約900m)の沿道には百貨店や金融機関などのビルディングが建ち並び、正面に天守閣を見据える見事なビスタ景観を形成しています。周辺の約70haが商業地域に指定され、一大商業集積地となっています。
しかし、郊外化の流れの中、中心市街地の商業停滞、人口減少、観光ニーズへの対応遅れなどが問題となり、姫路市では平成21年12月に「姫路市中心市街地活性化基本計画」の認定を受け、インフラ整備や商業活性化、観光振興などの事業が推進されています。商店街の通行量や空き店舗数などの指標は横ばいの傾向を示し、目立った成果は見られませんが、地区内居住者数は順調に増加しています。これは、ここ10年程度の間に、姫路駅から約500~700m程度の距離の同心円状に高層マンションが林立しており、その効果と考えられます(地図上確認できるもので15件)。
このように、姫路の中心市街地は、旧来の商店街集積地をベースにしつつ、高層マンションによる住宅市街地化、あるいはいわゆる場末の路地への個性的な店舗の集積など「構造変化」が進んでいます。さらに、駅北コアゾーンの再開発が完成すれば集客の勢力図も大きく変化するでしょう。
今後は、時代潮流に伴う構造変化にきめ細かに対応しつつ、都心居住や賑わい創出を進める必要がありますが、やはり姫路は「お城あっての姫路」。姫路城と調和したまちづくりや景観形成に取り組むことで、新たな城下都市(まち)づくりが期待されます。
(※弊社は平成23年度「姫路城と調和した中心市街地景観形成検討業務」を受託しています)

明石市では…(通りの魅力化を回遊性につなげる仕掛けを考える)

明石城跡には天守閣がありません。天守台跡はあるので計画はされていたようですが、もと姫路藩という事情もあるのか最初から築かれませんでした。とはいえ城下町は広大で、現在の明石港は運河を掘って港を兼ねたかつての外堀でしたから、明石の中心市街地は全て城下町に収まります。山陽道と港の恩恵を受けて城下町は繁栄しましたが、かつての町割りの上に急激に現代都市を形作っていく原動力にもなりました。現在は、魚の棚商店街や銀座商店街など数多くの商店街が密集する一大商業集積地を成し、城下町らしさは希薄で、むしろ「港町」「魚のまち」の方がイメージされるかもしれません。
明石市では、商店街集積地の活性化を推進するとともに、駅南側の量販店空きビルなどを含む街区の再開発を企図し、平成22年11月に新たな「明石市中心市街地活性化基本計画」の認定を受けました。駅南地区の再開発の推進、バス交通の利便性向上、商店会等の活性化協議などの取り組みを進めています。成果が出るのはこれからですが、最近は姫路B-1グランプリでの「明石焼きひろめ隊」の活躍や商店街でのシャッター絵画「トリックアート」など、地域ブランド化に向けた取り組みの萌芽が見られます。
このように、明石の中心市街地では、駅南の再開発事業に活性化の期待と、一方でそのあおりで商店街集積地を衰退させてはならないという課題認識とが混在しています。
今後は、「明石らしさ」の代表格でもある既存の商店街集積地の活性化を図るため、駅ビルのリニューアルや駅南の再開発事業と共存しつつ差別化(個性化)していくことが必要です。そのためには、個店の努力はもちろんのこと、「通り」としての魅力を高め、まちなかを「回遊」する愉しみを生み出すことが鍵だと考えます。
(※弊社は平成23年度「明石市都市景観形成地区指定検討業務」を受託しています)

活性化にタナボタはない(今から始める“景観でひと(人)もうけ”)

2つの城下都市(まち)の「にぎわい景観」づくりに携わる中で、改めて感じるのは、「その街らしさ」と「腑に落ちる将来ビジョン」の重要性です。有名なお城があっても、「らしさ」や「ビジョン」が強固とは限りません。外部の人間の目線からその街らしさを再確認すること、そして、「地域や通りの将来の姿と、その中で自分がどのような商売をするのか」をつなげて考えることが重要です。それを通りや地域で共有化していくのは至難の業かもしれませんが、お互いに重なり合う部分を探して認め合う(できれば意気投合!)する地道な取り組みが必要でしょう。
活性化の成功例からは「おもてなし」や「ブランド化」といったキーワードが聞こえてきますが、それは「その街らしさに皆で磨きをかける」ということです。いきなりブランド化はできません。まずは美化・清掃や景観整備などから始め、お客や観光客にとって「居心地の良い空間」にしていくことで、徐々に「にぎわいある景観」が育っていくでしょう。その上にお城があれば鬼に金棒、「景観でひと(人)もうけ」です。

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2012年3月1日発行

特集「まちづくりと城」

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