アルパックニュースレター172号

中山間地域での景観形成~景観をきっかけにまちの活力へつなげる戦略

執筆者;大阪事務所 絹原一寛・西村創


景観形成も次の段階(ネクストステージ)へ

平成16年6月に景観法が施行され、平成24年2月1日時点で景観行政団体が526団体、うち景観計画の策定が324団体と、良好な景観形成の取り組みは着実に広がりを見せています(出典:国土交通省ホームページ)。
最近ではこれまで景観の取り組み実績がなくても「景観を積極的にまちづくりに活用しよう」という自治体が増えています。とりわけ人口減少、高齢化に悩む中山間地域は景観をきっかけにしたまちづくりを交流の拡大、活力の増進につなげようという思いがあり、私たちへの相談も増えてきています。景観形成も創意工夫が必要な次の段階(ネクストステージ)に入ったと言えそうです。
本稿では現在お手伝いしている朝来市をご紹介しながら、これからの景観まちづくりを展望してみたいと思います。

朝来市の概要

朝来市は、兵庫県のほぼ中央部に位置する中山間の豊かな自然と歴史的な資源を持つ市です。現在、景観計画の策定を通して、景観まちづくりを進めています。一般的に朝来市の景観の資源として、皆さんの目に触れたりや耳に入るものは、生野を中心とした近代化遺産群と街なみ、天空の城とも呼ばれ雲海に浮かび上がる竹田城跡と街なみが多くなっています。しかし、これまで実施してきた市民意識調査などから、そのような有名な資源以上に、市民から大切な景観として認識されているものとしては、日常の生活の背景にある山並みであることが分かってきました。

景観まちづくり、スタート

そのような中で、朝来の魅力ある景観を活かした活性化や地域再生などを積極的に進めていくため、意識啓発や情報発信などを目的として、平成24年1月15日にあさご景観まちづくりシンポジウムが、実施されました。
国立明石工業高等専門学校建築学科教授の八木 雅夫先生から、景観に着目したまちづくりの大切さや、地域の人たちが主人公となる景観まちづくりなどを、各地の取り組み事例を交えながら講演いただき、市民の方に景観を通したまちづくりの可能性について知っていただきました。また朝来市出身の映像作家、藤原次郎氏から「朝来スケッチ」と題した朝来の景観を捉えた映像の試写を行っていただき、映像としてみる朝来の景観の素晴らしさを再発見させていただきました。そして最後に、市内で景観をキーワードに活動する方々に、それぞれの活動を紹介していただいた後に、景観まちづくりを広げていくために大切なことなどについて、意見を交わしました。
また平成24年3月3日には、「地域の歴史文化・景観を次世代に」と題した生野鉱山・文化的景観シンポジウムが実施されました。またそれに合わせて地区内では、民家や商店など約150軒に、昔のおひな様やかわりびな、手作りのおひな様が飾られる「銀谷のひな祭り」が行われるなど、まち全体で取り組みが行われました。
このように、朝来市では、景観というキーワードをもとに、様々な取り組みが行われると共に、その裾野を広げる活動を進めています。

景観まちづくりへの期待

シンポジウムの議論などを通じ、景観まちづくりへの期待として次のようなものがありそうだと考えます。
○「景観」から外の応援団を呼び、地域の再発見につなげる
「景観は空気のようなもの」と言われ、その素晴らしさはなかなか気づきにくいものですが、一方で「景観」は地元の方々でない第三者でも関わりやすい切り口です。第三者が参加できるプログラムも組み込んで地元の人が得られる“気づき”を促したり、仲間を増やしたりできる、そのような期待があると思います。
(こうしたアプローチは、Vol.162「特集:農村とまちづくり」や、Vol.171「篠山想いがたりプロジェクト」でもご紹介させていただいたところです)
○「景観」から身近なまちづくりの行動へつなげる
良さを共有したらそれを守り育てていくための行動へとつなげていくことが期待されます。例えば庭先の花の手入れや掃除をする、公園を散歩する、と本当に身近な取り組みが気持ちの良い景観づくりにつながっています。自分たちでできることを掘り起こし、またそれを支援していく動きにもつながります。
○「景観施策」はコストがかからない!?
景観施策はこのような内発的な動機付けを重視しているので、公園などのハード整備をすることと比較してもお金がかからない施策という側面もあるでしょう。
○「景観」から地域の「ブランド」に
近江八幡市のご担当者が仰っていましたが、景観まちづくりの行き着く先は市の「エリア・ブランドの確立」である、と。景観を軸に地域のイメージを発信して、観光の振興、特産品の開発・販売のみならず、訪れて良し、さらには住んで良しのまちづくりへと波及させていく。それが都市戦略として重要性を増していると思われます。
我々としても農村・産業・観光振興、住宅・環境政策、都市計画、CIといったデザイン、企業とのコーディネートなど様々な分野の専門性を活かし、景観まちづくりの可能性をさらに拡げていくお手伝いができたらと考えております。



アルパックニュースレター172号・目次

2012年3月1日発行

特集「まちづくりと城」

ひと・まち・地域

きんきょう

まちかど