アルパックニュースレター172号

「地域産業政策のこれからを考える」シンポジウムに参加して

執筆者;代表取締役社長 杉原五郎

本年1月20日(金)の午後、大阪市立大学で地域産業政策をテーマとするシンポジウムが開催され、パネリストとして参加した。

転換しつつある中小企業政策

シンポジウムの冒頭、大阪市立大学の本多哲夫先生から、1999年の中小企業基本法改定は、(1)問題型中小企業認識論から貢献型中小企業認識論へ、(2)「設備近代化支援」「業種支援」から「経営革新・創業支援」「個別企業支援」へ、(3)自治体の役割を積極的に評価、といった転換をもたらし、〈中小企業政策は、地域経済の成長戦略に位置づけることができるのか〉、〈中小企業の役割は、経済的側面だけでなく、地域自治の担い手であり、地域コミュニティの維持・発展を支える主体であるといった社会的側面を評価すべきではないか〉、との問題提起がされた。

大阪府のものづくり企業支援が直面する現実  

パネリストの一人、大阪府商工労働部の領家誠課長補佐は、大阪府のものづくり企業支援の現状と課題について具体的なデータを示してリアリティのある報告をした。
・府内のものづくり企業は、約4万1千社、従業者数は約56万人、製造品出荷額は約11兆円と高い集積がある
・従業者数が10人未満の事業所は、2000年から2008年にかけて約1万4千社(全体の33.8%)が消滅している
・大阪府は、施策の対象を10人以上99人以下の中小企業にターゲットを絞り、東大阪にあるMOBIO(モビオ)を拠点に個別企業支援を柱としたものづくり支援をしている
・府職員は、一人が30社を担当して、出会いの場づくりに奔走している

中小企業を主軸にした地域の活性化

私は、「憲章、条例、そして地域づくりを考える」をテーマに、中小企業経営者の立場から報告した。EU小企業憲章、米国の連邦中小企業庁による中小企業政策、わが国の中小企業憲章閣議決定など、中小企業政策をめぐる世界的な潮流について紹介した。さらに、大阪府内では、大阪府、大阪市、八尾市、吹田市、枚方市、大東市などで中小企業振興条例づくりが進展しつつある事実を述べた。
  また、アルパックでの中小企業支援の事例として、「京都試作ネット」と「まちなかバル」の紹介をした上で、元気な企業づくりが大切なこと、行政と中小企業がお互いの距離を縮める努力が必要なこと、中小企業に対して的確な社会的位置づけをすべきこと、の3点を問題提起した。

これからの地域産業政策に求められること

シンポジウムには、大阪市立大学の受講生百数十人に加えて、自治体や中小企業の関係者20数名の参加があり、これからの地域産業政策を考える上で幾つかの重要な検討テーマが浮かび上がってきた。中小企業を現在の日本の経済社会の中でどのように位置づけるのか、地域産業政策はどこに力点をおいて展開していくべきか、その担い手をどのように育てていくのか。
  「中小企業に就職したいですか」との司会者の質問に対して、会場の学生から、「起業するために、中小企業への就職を考えている」「大企業か中小企業かではなく、自分のやりたい仕事ができるかどうかを基準に企業選択を考えている」との発言がでた。「絶対的衰退の危機」にあるとも言われる足元の大阪経済の再生を考える時、たいへん心強く感じる若者の発言だった。

アルパックニュースレター172号・目次

2012年3月1日発行

特集「まちづくりと城」

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