アルパックニュースレター172号

日本初のエンタメ「ギア」京都でロングラン開始

執筆者;大阪事務所 森脇宏


ギア(出典:NPO法人ライブエンターテイメント推進協議会)

外国人も楽しめる新たな観光コンテンツを関西につくるため、「ギア」という演題のノンバーバルパフォーマンス(非言語の舞台劇)のロングラン公演を、4月1日から京都市内で開始します。私も理事を務めているNPOが主宰するもので、ぜひ鑑賞にお越いただいて、このチャレンジをご支援ください。

外国人が楽しめるコンテンツの創造

関西は、我が国の世界遺産(文化遺産)12件のうち5件が集積する世界遺産集積地域で、外国人観光客をはじめ、多くの観光客を集客できるポテンシャルを持っていますが、外国人のナイトライフのメニューが少ないことが課題の一つとなっています。
  今回、ロングラン公演を始めるノンバーバルパフォーマンスは、文字どおり言葉が不要なライブエンターテイメントですので、外国人も子供も楽しめるものになっています。鑑賞時間は1時間強で長くはなく、チケット代も、大人4500円、19~22歳&60歳以上3500円、4~18歳2500円とファミリーで鑑賞しても、リーズナブルになっています。
  また、外国人観光客の継続的な集客を図るためには、外国人観光客が買うガイドブックに掲載されることが極めて有効ですが、ガイドブックに掲載されるためには、「いつ行っても鑑賞できる」状況をつくる必要があります。今回のロングラン公演は、専用劇場を確保し、こうした状況づくりをめざしたチャレンジでもあります。

ロングラン公演による産業化

現在、我が国のリーディング産業として、クリエイティブ産業への期待が大きくなっています。クールジャパンを標榜した多様な取り組みが、内閣府(知的財産戦略本部)、経済産業省、外務省、国土交通省・観光庁、文部科学省・文化庁など、国の多くの関連省庁で行われています。
  今回の公演も、クリエイティブ産業の一環として位置づけることができますが、産業として成立するには、キャストやスタッフの安定的な収入が得られることが不可欠です。従来のライブエンターテイメントは、会場を借りて期間限定の公演を行うスタイルが多いため、公演期間以外は収入がなく、新たな会場を借りるたびに、舞台設営費や稽古時の人件費等の初期費用などが嵩み、産業として成立させるには多くの障害がありました。
  今回のように専用会場を確保して、連日公演を行うロングラン公演が成立すれば、安定的な収入が確保され、初期費用の回収も長期間で可能となります。すなわち、ロングラン公演は、産業として成立させるためのチャレンジでもあります。

世界に広がるノンバーバルパフォーマンス  

ノンバーバルパフォーマンスとして有名なのが、ニューヨークの「ブルーマン」という作品で、ブロードウェイのはずれの観客席300人程度の劇場で、同じ作品のみを20年間、毎日公演し、シカゴ、ボストンにも専用劇場を設けて5カ所で公演しています。同じくブロードウェイでは「ストーンズ」という作品も人気があり、17年目に入っています。
  お隣の韓国では、「ナンタ」が有名で、15年目を迎え、韓国内に300~350程度の客席数の常設劇場を4つ持っています。この「ナンタ」の後に数多くの作品が登場し、今では12のノンバーバル・パフォーマンスの常設公演が行われています。ちなみに、韓国では韓国観光公社を中心に、国家プロジェクトとして公演観光マーケティングに力を入れており、韓国観光公社は2006年から毎年、KOREA IN MOTIONというノンバーバル・パフォーマンスフェスティバルを開催しています。

世界チャンピオンが揃ったギア

今回公演する「ギア」のプロデューサーは、2009年の水都大阪に突如現れて、話題をさらったラバーダックの仕掛け人である小原啓渡氏ですので、面白いことは確実ですが、さらにキャストに、関西在住のブレイクダンス、パントマイム、バトントワラーの世界チャンピオンが揃っていますので、子供も楽しめるだけでなく、決して子供だましではない本物が鑑賞できます。
  オリンピック以外の世界チャンピオンが、その実績を仕事に活かそうとしても、これまでは○○スクールの教師くらいしか選択肢がありませんでしたが、貴重な人的ストックをエンターテイメントで活かせるという意味でも、「ギア」の意義は大きいと思います。しかも、ロングラン公演を行うためには、キャストの一人でも怪我や病気等で欠けることは許されませんので、ダブルキャスト、トリプルキャストといって、これらの一流キャストが、自分の代わりに演じることが出来るキャストを育成してきています。ロングラン公演は、こうした人材育成の面でも大きな効果があります。

会場は京都市の都心・三条御幸町

ギアの会場は、京都市の都心である三条御幸町にある「ART COMPLEX 1928」です(下図参照)。ここは、1928年(昭和3年)に大阪毎日新聞社京都支局ビルとして建築されたビルで、京都大学の建築学科を創立し、「関西建築界の父」とも言われる武田五一先生が設計されました。アール・デコの影響が認められ、意匠史の上からも注目に値する建築物として、京都市登録有形文化財に登録されています。
  公演は、平日は夜の1回公演(火・水は休演)、土・日・祝日は1日2回公演となっています。詳細は、ギアのホームページ<http://www.gear.ac/>に掲載されていますので、こちらのサイトをご覧ください。

関西発の新たなクリエイティブ産業の創造

今回の取り組みは、外国人観光客も楽しめる観光コンテンツの創造と、クリエイティブ産業の育成が目的ですので、「ギア」の成功だけでなく、第2第3の「ギア」が次々と登場し、産業として成立していくことが望まれます。このため、「ギア」を第1号としつつ、第2第3の「ギア」を支援する仕組みづくりにも、同時並行的に取り組んでいます。
  これはKCF(Kansai Creative Factoryの略称)と呼ばれる取り組みで、近畿経済産業局の提唱から始まっています。ブレイクする可能性があるコンテンツを、資金、会場、プロモート等の面から支援する仕組みを、(株)FM802、(株)角川マガジンズ、(株)電通等にも参加していただいて、現在検討しています。初期費用を市民が支援する市民ファンドも検討していますので、今後のKCFの取り組みにもご注目ください。

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2012年3月1日発行

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