アルパックニュースレター177号

期間限定サブリースPROJECTによる大和・町家の利活用

執筆者;地域再生デザイングループ/岡崎まり・嶋崎雅嘉・中塚一

歴史的な町並みが残る地区で空き家が増加

 奈良県内には、歴史的な町並みが残る地区が多く残っていますが、最近、空き家のまま放置され老朽化が進む町家が増えてきています。その要因としては、空き家でも仏壇や家財道具が残っているや、道路側の店舗部分は空いているが、奥の居住部分に住んでいる、建物が古くなっており、改修する必要があるが資金がない、空き家を他人に貸すと世間体が悪いなどが複雑に絡まり、なかなか空き町家の利活用が進まない状況となっています。このまま行けば、町家を含む歴史的な町並みや、その地域で引き継がれてきた祭りや生業等の人々の営みが、確実に失われていく危機的状況が迫ってきています。

現代アートイベント「HANARART」の開催

 奈良県では、2011年より、県内の歴史的な町並みが残る主な地域のまちづくり団体が連携し、町家に現代アート作品を飾るイベント「奈良・町家の芸術祭 HANARART」が開催されています。
 イベント全体は「現代アートが持つエネルギーが、町家や町並みの魅力をさらに深め、様々な発見、出会いや交流、その可能性を広げる(HANARART実行委員長 上田達也氏)」という目的で開催されており、空き町家の利活用の視点での2011年の成果として、期間限定であれば、軒先や店先等を所有者からお借りすることが出来るという感触を得ることが出来ました。

「大和・町家サブリースPROJECT」

 このような成果を踏まえ、今年度は、HANARART2012の開催時期に合わせ、全県的な空き町家情報の一元化や町家の利活用に関する情報の受発信等を行っているネットワーク組織「大和・町家バンクネットワーク協議会」が、国土交通省の委託事業を活用し、期間限定型のサブリース事業に取り組まれました。(アルパックも事業の一部をお手伝いさせていただきました)
 PROJECTの目的は、協議会が、空き町家を期間限定でオーナーからお借りして(マスターリース)、町家を利用したい個人、企業、NPOなどにお貸しする(サブリース)ことで、町家の新しい利活用の可能性を見つけると共に、継続的なサブリース事業の課題と解決方法を探るものです。

キャッチコピーは「この秋、町家がおもしろい。」

 今回、パンフレットのキャッチコピーの通り、事務局から思いもよらない利活用の取り組みが提案されました。例えば、「手作り鉄道模型ジオラマを展示販売したい」や、「フェアトレードやコミュニティトレードの衣料品や雑貨などを販売したい」、「奈良初上陸のファッションブランドを展示販売したい」などなど。具体的には、県下4地域の7軒で、6組のユーザーが、PROJECTの趣旨に賛同され、空き町家の利活用に取り組まれました。
(中塚一)


五條新町の修復された町並みとHANARART

大和郡山の旧遊郭を活用したHANARART

「町家で何かやりたい人、募集します」

 私は入社以来、様々な地域で住宅マスタープラン等の策定に関わらせていただいています。その度に空き家の増加が地域の大きな課題になっていることを実感してきました。
 空き家活用に向けて空き家バンク制度の導入などを検討してきましたが、取り組み内容等を考える立場に立つだけでなく、一度利用者側に立って実体験してみたいという思いが強くなっていきました。その様な時に目にしたのが『町家で何かやりたい人、募集します』というキャッチコピーでした。
 大和・町家サブリースPROJECTでは1週間単位で賃借契約が出来る仕組みとなっており、このことが町家を借りて住んでみようと思えた大きなきっかけとなりました。

町家マッチング

 私が町家バンクの方にお願いした町家選びの条件は、通勤時間が1時間程度であることとお風呂が使えることの2つでした。この条件に合う町家として桜井市三輪にある物件を紹介していただき、2週間の町家暮らしが始まりました。

レンタル品探し

 2週間という期間は、町家を借りるハードルを下げるものでしたが、それ以外の生活道具をレンタルして揃えるには難しい条件となるものでした。個人向けのレンタル商品は月額や半年などのスパンで値段設定をされている事が多いからです。
 町家バンクがレンタル会社の役割も担い、1週間単位で電化製品等を格安で貸し出すことが出来れば、出張や長期旅行等で訪れた人が、町家暮らしを選択しやすくなるのではないかと思います。

町家ちょっと暮らし

 町家での暮らしは「まちに住む」ということを強く感じるものでした。町家に住む事自体、中庭や縁側を通して外と緩やかにつながっており、忘れがちな日々の移ろいを感じることができましたが、それ以上に、近くを流れる川や神社、周りのまちなみを散策することで、昔から大切にされている地域の営みを感じることができました。
 働きながらの町家暮らしだったので、近隣の人と顔見しりになる機会が持てなかったことが残念でした。周りに住む人も誰が住んでいるのか不安だったのではないかと思います。
 空き家活用を促進するために借りやすいシステムを構築することも大事ですが、それ以上に利用者と地域住民との接点をどのように生み出すかが重要だということを感じました。
 今後は、地域住民がより安心して空き家活用に協力出来るように、空き家の所有者や利用者の目線に立つだけでなく、地域住民の立場に立った提案も考えていきたいと思います。
(岡崎まり)


サブリースPROJECTでのジオラマ展示販売

サブリースPROJECTでの衣服の展示販売

アルパックニュースレター177号(新年号)・目次

2013年1月1日発行

新年の挨拶

ひと・まち・地域

きんきょう

うまいもの通信

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まちかど