アルパックニュースレター177号

震災復興と観光のチカラ

執筆者;公共マネジメントグループ/高田剛司

日本観光研究学会全国大会in石巻・仙台

 昨年11月30日~12月2日の3日間、日本観光研究学会第27回全国大会が石巻と仙台で行われ、私も参加してきました。テーマは「地域の再生と観光のちから」。学術論文の発表は最終日に仙台の宮城大学で、その前の2日間は、復興交流フォーラムと地域視察が石巻市内で行われました。 復興交流フォーラムでは、NPO法人「森は海の恋人」の畠山重篤理事長による基調講演、石巻専修大学、石巻市、石巻観光協会、東松島市・観光物産協会、女川町・観光協会、地元新聞社による現地報告、そして学会員との交流会でした。
 石巻地域からの報告では、被害があまりにも甚大で、特に地盤沈下の被害に対する基盤整備の方針が定まらない中で復興を進めていくことが非常に難しいことを指摘されていました。そのような中でも、震災の教訓を伝える語り部の活動が広がっている状況が紹介され、観光によって地域経済を活性化させたいという地元関係者の思いが伝わってきました。
 地震や津波からどのようにまちを守るのか、これまでの住まいの場所をどこに確保するのか、コミュニティはどうなるのかといった点は、今回の震災によって突きつけられた都市計画の大きな課題です。一方で、農業や漁業、商工業、観光の面から、地域経済の活力を取り戻すことも同時に考えていかなければなりません。

被災状況を目の当たりにして考える

 観光には、発地から目的地(現地)への移動が伴います。バーチャルではなく自ら現地を訪れ、体験・体感することができます。
 今回訪問するちょうど2週間前に、石巻市中心部にあるマンガミュージアム「石ノ森萬画館」が再開しました。生活の場の復旧・復興があまり進んでいない中で、観光施設の再開には賛否両論もあるようですが、ここを訪れると、石ノ森章太郎作品から、新しいことにチャレンジすることの大切さを学べます。また、震災時の様子を伝える展示コーナーでは、地震発生直後の「ラジオ石巻」による放送が流れていて、当時の切迫した状況を耳からも感じられる空間となっています。
 地域視察の時には、焼けた校舎がそのままになっている門脇小学校の校庭に立ち寄り、その地区の出身で津波に遭遇した石巻専修大学の学生さんから話を聞きました。日本製紙(株)石巻工場では、社員の方から工場の復旧再開までの様子を詳しく伺いました。
 このように、テレビの映像ではわからない震災現場の臨場感、スケール感を被災地に訪れることによって感じることができました。

飲食やおみやげの消費が地域の経済を元気にする

 地域視察の昼の集合場所は、「石巻まちなか復興マルシェ」でした。ここでは複数の復興企画商品を買うことができ、中心市街地では、少しずつですが商店や飲食店が再開してきています。仮設商店街の「石巻立町復興ふれあい商店街」もオープンしています。よく言われるように、観光は地域に経済波及効果をもたらします。観光客が飲食をし、おみやげものを買い、宿泊することによって、地域の産業が元気になれば、地元の雇用と定住に結びつきます。とりわけ漁業が地域産業の柱である石巻では、加工品製造も含めて、その影響は大きいと思われます。
 今年の3月で震災から丸2年を迎えますが、被災地の復旧・復興はまだ緒に就いたばかりです。一人でも多くの人が被災地を訪れることで、観光が地域のチカラになり、訪問者にとってもまちづくりを考える機会になることを願っています。


昨年6月にオープンした石巻まちなか復興マルシェ

昨年11月に再開した石ノ森萬画館

アルパックニュースレター177号(新年号)・目次

2013年1月1日発行

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