アルパックニュースレター177号
堺高校発、学校から始まるエコな建物の使いこなし
建築プランニング・デザイングループ/原田稔
以前、ニュースレター(2009年11月158号)でも紹介しました堺市立堺高等学校の「学校エコ改修と環境教育事業」も昨年度に改修工事を終え、今年度からエコ改修された2棟の実習棟が授業で使用されています。
そもそもこの事業は環境省のモデル事業であり、学校施設をエコ改修することにより、建物でのエネルギー消費を抑え、CO2排出量を削減する目的があります。
しかしながら、現実には学校(公立学校)は冷房設備を備えていないところがほとんどで、照明と言っても主に昼間に使用する程度で、エネルギー消費量を減らすことはなかなか難しい課題です。
一方で、未だに断熱もされていない建物も多く、生徒たちは、夏暑く、冬寒い環境のなかで授業を強いられています。
学校をエコ改修するということは、実はCO2排出量を削減するということ以前に、生徒たちの学習環境を改善するという大きな目的があるように思います。
今回の堺高等学校のエコ改修においても、夏の暑さと冬の寒さ改善が最も重要な課題となりました。特に、大空間を持つ機械科実習棟は屋根や外壁の断熱性能に乏しく、真夏には日射により直天井面の温度は50℃近くまで上昇し、その輻射熱を受けて室内温度も40℃近くまで上昇することがまれではありませんでした。
これを改善するために、外壁の断熱や屋根の遮熱・断熱性能を上げるとともに、自然換気を有効に活用する工夫がなされました。既設のトップライトを開閉式に改修し、熱い空気を逃がし、壁の窓には夜間の涼しい空気を取り込む(ナイトパージ)小窓が設置されました。シーリングファンにより室内温度を拡散するとともに体感温度を下げる工夫もなされています。
その結果、今年度、改修後に大阪大学が行った夏の環境調査では、機械科実習棟の天井面の表面温度は35℃以下となり、室内温度も34℃以下と室内環境がかなり改善され、先生方からも快適になったと好評を頂いています。改修後の効果については、「日経アーキテクチュア:2012-10-25」でも紹介され、以下のサイトでもご覧になれます。
「ケンプラッツ」
https://kenplatz.nikkeibp.co.jp/premium/dl.jsp?id=2359467&pg=search
また、同時に行われた耐震補強の鉄骨フレームを利用して設置された緑のカーテンは、西日を遮る役目をしています。
この他にも、もう一つの対象棟を中心に耐震化を含めたエコ改修や外構の緑化などがなされています。
このように、今回のエコ改修では機械設備に頼らないパッシブな建築の考えが取り入れられています。しかしながら、その効果を最大限活かすには、使い手がその原理を理解し上手に使いこなすことが必要です。そこで、堺高等学校ではエコ改修工事と併行して様々な環境教育の取り組みが行われて来ました。
例えば、校舎のエコな使いこなしをまとめたエコマップも作成されました。今後、生徒たちがここで学んだエコな建物の使いこなしを自分たちの家や地域で実践してくれることを期待します。
本事業は環境省のモデル事業であり、堺市の委託の元、大阪大学大学院の山中俊夫教授と大阪府立大学大学院の上甫木昭春教授にアドバイザーとして参画して頂き進めてきました。改修設計は昭和設計・高橋建築設計事務所JVが担当し、私たちアルパックは専任事務局として事業を統括し進めるお手伝いをさせて頂きました。
![]() 科改修された実習棟(左)と中庭 |
![]() 建築インテリア科を対象とした現場見学勉強会 |
![]() 改修された機械科実習室 |
![]() 生徒たちによる環境測定 |
アルパックニュースレター177号(新年号)・目次
新年の挨拶
ひと・まち・地域
- 三重県の新しいお米「結びの神」が誕生!
/産業・地域経済イノベーショングループ 原田弘之・武藤健司 - エネルギーの「見える化」!豊中市での市民向け省エネ推進社会実験
/環境マネジメントグループ
山﨑衛・中川貴美子・森野真子・畑中直樹 公共マネジメントグループ 石井努 - びわ湖の森を元気するkikitoの取り組み~ニュースレター今号は“森林整備に貢献する紙”で発行
/環境マネジメントグループ 中川貴美子・畑中直樹 - 期間限定サブリースPROJECTによる大和・町家の利活用
/地域再生デザイングループ 岡崎まり・嶋崎雅嘉・中塚一
きんきょう
- 地域に根ざして30年/名古屋事務所 尾関利勝
- 堺高校発、学校から始まるエコな建物の使いこなし/環境マネジメントグループ 畑中直樹・森野真子 建築プランニング・デザイングループ 原田稔
- 震災復興と観光のチカラ/公共マネジメントグループ 高田剛司
- 都市を計画する仕事のこれから/代表取締役会長 杉原五郎
- アイスポットニュース/都市・地域プランニンググループ 絹原一寛











