アルパックニュースレター195号

震災にあったネパールを訪れました

執筆者;環境マネジメントグループ/長沢弘樹 アルパックOB/霜田稔

震災から約半年

 ヒマラヤ山脈の麓に広がるネパールで、マグニ チュード8近い大地震が起きたのは、昨年の4月末です。日本をはじめ国際社会からの支援が多数寄せられるものの、実際の復興はなかなか進んでいません。とりわけ、日本でも課題となった、地域のコミュニティの復興については、まずは住むところが優先されることもあり、手が回っていないようです。
 昨秋、ネパール復興を支援できないかという相談 があり、ネパールを訪れました。具体的な活動はこれからですが、簡単にご報告します。

ネパールの世界遺産と地震の爪痕

 ネパールは60年代からヒッピーの聖地として知 られ、観光客が絶えません。特に首都があるカトマ ンズ盆地には過去の王宮等の史跡や寺院など7つの世界遺産があり、人気を集めています。ネパールのまちは中心に寺院を配し、周辺に商店や手工業の店が密集しています。柱や窓枠などに彫刻などの装飾が施された建物が多数あり、世界遺産とあわせて独特の街並みとなっています。
 しかし、煉瓦を積み重ねた造りで耐震性に欠けるため、今回の地震で、貴重な観光資源でもある建造物が大量に倒壊してしまいました。さらなる倒壊を 防ぐため、柱をつっかいにした建物も目立ちます。
 ネパールも日本と同様に地震が多く、史跡や寺院 は、何度も被害を受けています。これまでもドイツなど各国の支援で、長期にわたり、過去の地震被害の修復が行われてきましたが、今回の地震で再び被災した建物も多く、単純な修復に加えて、耐震性の確保が課題となっています。
 我々が訪れたときも、地震前からの修復作業が継 続して実施されていました。ネパールの古い建築物は、彫刻などの装飾の施された柱が特徴的ですが、 柱が細く、耐震性の確保が困難なため、やむなく普通の柱に取り換えることも多いようです。
 一方、住宅地など、世界遺産以外の地域では、手 がつけられていない場所も多く残っています。行政 の支援は資材の提供程度であり、建物を自力で修復するしかないようです。また、住民がばらばらに避難せざるを得ないため、コミュニティの継続も課題です。まちを歩くと、あちこちにがれきが残ったままの場所があり、胸を痛めます。


lesingkhat地区内

歴史と文化を継承する復興が必要

 ネパールはアジアの他の国と同様に急激な都市化 が進み、まちの姿は大きく変わり続けています。今 回の地震は、その流れをますます加速することになるでしょう。そのため、ネパールの震災復興には、日本における復興以上に難しい面がでると思って います。
 観光対策として考えた場合、優先順位が高いのは 世界遺産の修復です。しかし、ネパールが今後も魅 力的な場所であるためには、世界遺産だけでは不十 分であり、寺院や史跡を含むまち全体が歴史と文化 を継承していくことが必要です。そこでは、実際の 建造物などの物質面と、地域に根付き、継承されて きた精神的なものの両方の継承が重要ですが、とりわけ、「精神復興」ともいえる取り組みが重要ではないでしょうか。そのためにも、皆様の知恵を拝借しつつ、活動を続けていきたいと思います。
 最後になりますが、今回の訪問では現地及び日本の関係者の皆様に大変お世話になりました。深く感謝します。
(長澤弘樹)


Taumadi広場の西南の崩れたパゴダを見る

Taumadi広場北Ramediさんの崩壊

精神復興の方法と目的と

 説明が難しいのですが、概略は以下のとおりです。
 まず、日本にもネパールにも自然崇拝の歴史があり、目で見える対象だけを扱う科学では捕らえきれない、深い感性を持っています。生活と宗教との関係が深いネパールでは、こうした感性が重要です。
 次に、自然崇拝の上に成り立つ工学の発展です。ヨーロッパ発祥の近代科学の失敗の歴史を繰り返さず、ネパールに適合した、因果応報の思想を組み入れたサイエンスを再興する必要があります。
 さらに、地理学者の川喜田二郎がネパールでの調査研究から開発援助の哲学かつ実践の方法である KJ 法を生み出したように、当地に内在する、学際的、野外研究、合意形成、創造的チームワークといった実践的活動の継承も必要です。
 復興の活動を進めながら、ゆくゆくは現地の寺院の復興と、日本の若者や高齢者の人間形成の場とを組み合わせた「ネパール行脚」の活動を進めたいと思っています。
(霜田稔)

アルパックニュースレター195号(新年号)・目次

2016年1月1日発行

新年の挨拶

ひと・まち・地域

きんきょう

うまいもの通信

まちかど