アルパックニュースレター173号

特集

創造的なデザインを引き出す北戸田の街並みルールづくり

執筆者;大阪事務所 坂井信行


まちのイメージを絵で表現していただいた

戸田市にはJR埼京線の3つの駅があって、一番北にあるのが北戸田駅です。北戸田駅の周辺では新しい拠点づくりを目指して土地区画整理事業が進められていますが、併せて魅力的な街並みづくりのために市条例に基づく景観づくり推進地区が指定されることになっています。景観づくり推進地区は、 景観形成を重点的に進めていくため、街並み形成のルールを含む景観づくり推進計画を定めるものです。私たちはその計画づくりに関わらせていただきました。

街並みルールづくりのワークショップ

北戸田駅周辺地区の景観づくり推進計画の検討は、公募によって集まっていただいた地元住民の方々が参加するワークショップにより進めました。ワークショップでは、参加者に暮らしの中でのまちとの関わりやまちの中での様々な「出来事」をできるだけ具体的にイメージしていただきながら、その舞台となる街並みの将来像を共有していくプログラムを考えました。
戸田市全体にもいえることですが、北戸田という新しいまちにいかに特徴づけをし、また地区ならではの魅力をつくっていくのかが課題となりました。 そこでワークショップの第1回目では、手始めとしてまちを何かに例えて、それを絵に描いて紹介していただきました。その後、建物の形、色彩、夜間 の演出とテーマを絞った議論をし、最終回には計画の素案を確認しました。

参加者の「生きた言葉」を街並みルールに活かす

全5回のワークショップを通して参加者の方々によって、様々なまちのイメージが多様な語り口で語られました。例えば、こんな感じです。 「このあたりはかつて芦原だった」「新しいまちだけど路地裏で一杯飲みたい」「通りから店のようすがわかると安心できる」「井戸端会議ができるような場所が欲しい」「若々しい青春のイメージがある」。 これらの「生きた言葉」をできるだけ活かしたルールをつくりたいと考え、パターンランゲージの手法を用いることにしました。参加者の口をついて出 てきた言葉を目指したい北戸田の景観のパターンととらえ、そのパターンを組み合わせることによって魅力的な街並みをつくっていくことができる創造的なルールとなるよう工夫しました。例えば、前述のイメージに対応するパターン(ルール)はこんな感じです。
「芦原と田畑の記憶」(土地の記憶を継承する)、「ほっとできる路地空間」(視線の先が閉じた通りをつくる)、「気配を感じるウインドウ」(敷地 と通りの親密感を生み出す)、「出会いを生む井戸端」(まちなかにたまり空間をつくる)、「青春の青と癒しの緑」(青と緑をまちのイメージカラーとする) パターンランゲージでは、対象とする空間のスケールや要素の種類によってパターンが、入れ子構造になっていたり、組み合わせに一定のルールがあるのですが、今回はできるだけシンプルな構造となるようにしました。

ワークショップとパターンランゲージの親和性

景観に限ったことではありませんが、事前明示的なルールによって建物の創造的なデザインを引き出していくことは非常に難しいものです。北戸田の街 並みルールづくりでは、こうした問題をパターンランゲージで解決しようとするものです。この考え方自体は新しいものではなく、これまでに景観の計画やルールにも活用された例はいくつかありますが、パターンから具体のデザインに誘導するために行政の指導でも相応の能力が求められる手法でもあります。そうした課題はあるものの、今回の取り組みではパターンランゲージがワークショップ参加者によって語られた「生きた言葉」を街並みルールにうまく取り込むことができる、創造的なワークショップと非常に親和性の高い手法であることを実感しました。

アルパックニュースレター173号・目次

2012年5月1日発行

特集「進化・深化・多様化するワークショップ」

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まちかど